日本最終上映
詩人ソフォクレスのギリシャ悲劇「オイディプス王」の映画化。
コリントスの青年オイディプスは、母と交わり父を殺す、という神託を得る。予言を恐れた
オイディプス は、故郷を捨て、荒野を放浪するうち ライオス王と出会う。そのライオス王こそ、オイディプスの真の父親 だったのだー 。近代・古代・現代の 3 つの時代設定を背景に、荒野に捨てられた赤ん坊のオイディプスが運命の神託に従って、父を殺し母と交わり、逃れることのできない無意識の欲望と運命と戦う姿を描くー。自身の人生をも託すパゾリーニの傑作。
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ピエル・パオロ・パゾリーニ Pier Paolo Pasolini
映画監督のみならず、作家、詩人、批評家などさまざまな顔を持ち、1975年に突如この世を去ったイタリアの異才。詩集「グラムシの遺骸」でヴィアレッジョ賞を受賞するなど急進的な文学活動を繰り広げる一方、フェデリコ・フェリーニ監督『カリビアの夜』やベルナルド・ベルトルッチ監督のデビュー作『殺し』など数多くの脚本を手掛け、61年に『アッカトーネ』で映画監督デビュー。『奇跡の丘』で新境地を開き、ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞を受賞、米アカデミー賞でも3部門ノミネートを果たし、『アポロンの地獄』では世界中を震撼させた。スキャンダラスな話題に事欠かなかったが、その唯一無二の存在は、パブロ・ラライン『スペンサー』、ミア・ハンセン=ラヴ『ベルイマン島にて』、アリーチェ・ロルヴァケル『幸福なラザロ』、そしてシャンタル・アケルマン『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディールマン』など幅広い映画作家たちを魅了し、今もなお影響を与え続けている。
神話・歴史・性などのテーマを大胆に解釈し、映像表現の限界に挑戦し続けたパゾリーニ。優れた詩人、文学者、批評家だからこそ成しえた独創的な映像詩は、絵画や音楽、文学、そして言語学などのモチーフを切り取り、重ねることで構築された。その実験的な撮影方法は、目にみえない境界線を飛び越え、西欧を東洋へ、悲劇を寓話へと転換し、異世界に誘う。この卓越的な演出力は、観る者の固定概念を破壊し、強烈な衝撃と感動を与える。古典を現代の価値観と視点で表現するパゾリーニの映画は、過激で難解なイメージが先行しがちだが、「欲望と矛盾」、「孤独や狂気」、そして「愛と憎悪」など、人間の内面に潜む感情を根源として 、生きることの「喜び」と「苦しみ」を教えてくれる。その彼の類まれな映像詩は、唯一無二の表現として、古典ではなく、今もなお現在進行形として語り継がれることだろう。