日本最終上映
マタイによる福音書に基づく、キリストの伝記映画。
処女懐胎、イエスの誕生、イエスの洗礼、悪魔の誘惑、イエスの奇跡、最後の晩餐、ゲッセマネの祈り、ゴルゴダの丘、復活のエピソードが描 き出されるー 。出演者は全て職業的な俳優ではなく素人を起用し、スペインの学生だった エンリケ・イラゾクイがキリ ストを演じ、年老いたマリアには監督の母スザンナが登場。下層プロレタリアートの若者を描いてきたパゾリーニが、斬新なテーマと実験的な撮影方法で新たな映像表現を確立し、ヴェネツィア国際映画祭審査員特別賞ほか、数々の賞を受賞した。
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ピエル・パオロ・パゾリーニ Pier Paolo Pasolini
映画監督のみならず、作家、詩人、批評家などさまざまな顔を持ち、1975年に突如この世を去ったイタリアの異才。詩集「グラムシの遺骸」でヴィアレッジョ賞を受賞するなど急進的な文学活動を繰り広げる一方、フェデリコ・フェリーニ監督『カリビアの夜』やベルナルド・ベルトルッチ監督のデビュー作『殺し』など数多くの脚本を手掛け、61年に『アッカトーネ』で映画監督デビュー。『奇跡の丘』で新境地を開き、ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞を受賞、米アカデミー賞でも3部門ノミネートを果たし、『アポロンの地獄』では世界中を震撼させた。スキャンダラスな話題に事欠かなかったが、その唯一無二の存在は、パブロ・ラライン『スペンサー』、ミア・ハンセン=ラヴ『ベルイマン島にて』、アリーチェ・ロルヴァケル『幸福なラザロ』、そしてシャンタル・アケルマン『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディールマン』など幅広い映画作家たちを魅了し、今もなお影響を与え続けている。
神話・歴史・性などのテーマを大胆に解釈し、映像表現の限界に挑戦し続けたパゾリーニ。優れた詩人、文学者、批評家だからこそ成しえた独創的な映像詩は、絵画や音楽、文学、そして言語学などのモチーフを切り取り、重ねることで構築された。その実験的な撮影方法は、目にみえない境界線を飛び越え、西欧を東洋へ、悲劇を寓話へと転換し、異世界に誘う。この卓越的な演出力は、観る者の固定概念を破壊し、強烈な衝撃と感動を与える。古典を現代の価値観と視点で表現するパゾリーニの映画は、過激で難解なイメージが先行しがちだが、「欲望と矛盾」、「孤独や狂気」、そして「愛と憎悪」など、人間の内面に潜む感情を根源として 、生きることの「喜び」と「苦しみ」を教えてくれる。その彼の類まれな映像詩は、唯一無二の表現として、古典ではなく、今もなお現在進行形として語り継がれることだろう。