伝説の映画監督。代表作を一挙公開。
既成の映画ルーティンをことごとく破壊し、観る者を全く新しい地平へと誘う映画監督、シャンタル・アケルマン。
昨年、イギリス映画協会が10年ごとに選出する「史上最高の映画(The Greatest Films of All Time)」にて代表作『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』が見事1位に輝いた。デビュー作の短編『街をぶっ飛ばせ』をはじめとした『絵からの手紙』、『一晩中』、『ゴールデン・エイティーズ』、『東から』の5作品をラインナップ。そのいずれもが異なる貌を持つアケルマンの世界をご堪能ください。
シャンタル・アケルマン Chantal Akerman
1950 年6月6日、ベルギーのブリュッセルに生まれる。両親は二人ともユダヤ人で、母方の祖父 母はポーランドの強制収容所で死去。母親は生き残ったのだという。女性でありユダヤ人でありバイセクシャルでもあったアケルマンは15歳の時にジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』(65)を観たことをきっかけに映画の道を志し、18歳の時に自ら主演を務めた短編『街をぶっ飛ばせ』を初監督。その後ニューヨークにわたり、初めての長編『ホテル・モンタレー』(72)や『部屋』(72)などを手掛ける。ベルギーに戻って撮った『私、あなた、彼、彼女』は批評家の間で高い評価を得た。25歳のときに平凡な主婦の日常を描いた3時間を超える『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を発表、世界中に衝撃を与える。その後もミュージカル・コメディ『ゴールデン・エイティーズ』や『囚われの女』、『オルメイヤーの阿房宮』などの文芸作、『東から』、『南』(99)、『向こう側から』(2002)といったドキュメンタリーなど、ジャンル、形式にこだわらず数々の意欲作を世に放つ。母親との対話を中心としたドキュメンタリー『No Home Movie』(2015)を編集中に母が他界。同作完成後の2015年10月、パリで逝去。
▼街をぶっ飛ばせ
※『家からの手紙』と併映
Collections CINEMATEK – ©Fondation Chantal Akerman
監督・出演:シャンタル・アケルマン|撮影:ルネ・フルシュター
1968年|ベルギー|モノクロ|12分
当時18 歳だったアケルマンが、ブリュッセル映画学校の卒業制作として初めて監督、主演を務めた記念すべき処女作。花束を手にアパートの階段を駆け上がったひとりの女。鼻歌を口ずさみながらパスタをつくって食べ、調理器具をばらまき、洗剤をまき散らし、マヨネーズを浴びる。狭いキッチンで縦横無尽に暴れ回った彼女の支離滅裂な行動は、驚くべき事態で幕を閉じる。その後の反逆的な作品群の原点とも言える破壊的なエネルギーに満ちた、あまりに瑞々しい短編。
▼一晩中

出演:オーロール・クレマン、チェッキー・カリョ、ヴェロニク・シルヴェール、ヤン・デクレール
1982年|ベルギー・フランス|カラー|90分
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▼ゴールデン・エイティーズ
▼家からの手紙
※『街をぶっ飛ばせ』と併映

1976年|ベルギー・フランス|カラー|85分
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▼東から
※日本語字幕無し

1993年|ベルギー・フランス|カラー|115分
ポーランドやウクライナ、東ドイツといった、ソ連崩壊後の旧共産主義国の都市とそこで暮らす人々の姿をとらえたドキュメンタリー。ナレーションや場所の名前をも排して、アケルマンは時折市井の人々の家庭の様子を散りばめながら、果てしない距離や文化情勢、生活様式を記録した。洞窟のような駅のホーム、カメラを見つめる人々の表情、寒空……。透徹した眼差しがその場所で確かに流れる時間と観客を近づけ、好奇心を駆り立て、映像そのものが静かに語りはじめる。
▼ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地
「史上最高の映画100」第1位
© Chantal Akerman Foundation
ジャンヌは思春期の息子と共にブリュッセルのアパートで暮らしている。湯を沸かし、ジャガイモの皮を剥き、買い物に出かけ、“平凡な”暮らしを続けているジャンヌだったが……。アパートの部屋に定点観測のごとく設置されたカメラによって映し出される反復する日常。その執拗なまでの描写は我々に時間の経過を体感させ、反日常の訪れを予感させる恐ろしい空間を作り出す。主婦のフラストレーションとディティールを汲み取った傑作。ジャンヌを演じるのは『去年マリエンバートで』(61)『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(72)のデルフィーヌ・セイリグ。
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