わたしは見た。何を?
(C)Umberto Montiroli
ローマからシチリアへ。トラブル続きの旅のなか、遺灰が見たものは?
映画の主人公は、1936年に亡くなったノーベル賞作家ピランデッロの“遺灰”である。死に際し、「遺灰は故郷シチリアに」と遺言を残すが、時の独裁者ムッソリーニは、作家の遺灰をローマから手放さなかった。戦後、ようやく彼の遺灰が故郷へ帰還することに。ところが、アメリカ軍の飛行機には搭乗拒否されるわ、はたまた遺灰が入った壺が忽然と消えるわ、次々にトラブルが・・・。遺灰はシチリアにたどり着けるのだろうか——?!
“遺灰”の旅は、熱情とユーモアを持って描かれ、イタリアの戦後史をも語る。そのモノクロ映像の美しさ、音楽の美しさ、ゆったりした語り。わずか90分の映画の豊かさが凝縮されている。『父/パードレ・パドローネ』『カオス・シチリア物語』『グッドモーニング・バビロン!』が知られる名匠タヴィアー二兄弟が、2018年に兄ヴィットリオが死去後、現在91歳の弟パオロが初めて一人で発表した、深い感動を残す傑作である。
エピローグ『釘』—ピランデッロ作
タヴィアー二兄弟の名作『カオス・シチリア物語』の原作者でもあるピランデッロ。作家のエピソードを並べるのではなく、その短編小説「釘」を映像化した一編で作家を語るという、見事な構成で終幕を飾っている。